「しつけがうまくいかない」ということの原因を深く突き詰めていくと、ほとんどの場合、結局は飼主の問題に突き当たります。トレーナに任せる場合であっても、そのトレーナを選んでいるのは飼主です。では、いったい飼主の何がいけないのか。具体的なものとして言われることは、知識・技術・経験の不足ですが、本当にそれらがありさえすれば必ずうまくいくのか、そもそもそれらは絶対に必要なものなのか。犬をしつけられる人とそうでない人は、そのような点だけで分けられてしまうのか。
知識・技術・経験は確かに大切なものですが、それは決して本質ではない。私はそう信じています。知識や技術がなければ学べばよい。つまり自分の外側にあるものなら内側に入れてやればいい。ことは非常に単純。学ぶ時間を十分にとればいい、だだそれだけのこと。「そんな時間はとれない」と言うのなら、話はもう終わり。「必要」なものに時間をかけるのは当然のこと。議論の余地はない。私たちは時間をかけなければ何も手に入らないのだ。たしかに時間をかけても手に入らないものもあるかもしれないが、それは実際のところ、時間のかけ方が足りない場合がほとんどだ。時間は「ちゃんと」かけなければダメなのです。トレーナを選ぶのも同じです。ちゃんと勉強して、ちゃんと調べて、ちゃんと観て選ばないといけない。時間を掛けなければいけないことは、まったく同じなんです。
大事なのは、「ちゃんと時間をかける」こと。
「ちゃんと時間をかける」というのは、本当にしんどいことで、現実的にはなかなか難しいものです。でも、真理は1つ。「時間をかけなければ何も手に入らない」のだ。私たちはこの真理を肝に銘じておかなければなりません。
「努力する時間を確保する努力」をする。5分、10分でも時間を作る。忙しい毎日からその5分、10分をなんとか絞り出す。絞り出せるかどうかは自分次第。自分がどれだけ「本気」なのか、ただそれだけで決まるんです。他者はまったく関係ない。全部、自分自身の問題なんです。そのように考えなければ「時間」というものは確保できません。
でも、相手が飼犬ならば、多くの知識や技術を学ぶ必要はありません。いろいろ学んで考えることは続けた方が良いですが、犬は飼主の「本気度」をちゃんと感じます。飼主が必死になっていれば、犬はそれに応えようとしてくれるし、落ち着いていれば、犬も安心して静かにしている。いい加減な動きをすれば、犬はかならず不安定になる。本気で褒める。本気で叱る。本気で落ち着く。その姿をしっかりと見せてあげる。
もっと簡単に言えば、いつも「犬にとって」分かり易いように動いていてあげる。この点を気を付けるだけで、犬は少しずつ変化してくれるはずです。
一方、よく誤解している方がいますが、「経験」というものは、時間や数には比例しません。トレーナの中には、訓練した頭数などを偉そうに引き合いに出している人が散見されますが、それはその人の評価には使えない指標です。「経験」とは、その人の「厚み」や「深み」のようなもので、時間や数よりもむしろ感受性や思考力に依存します。1を聞いて10を知る人は、1つの体験から10の経験を積むということです。優れた感受性と思考力を持つ人は、1つの出会いから、たくさんの蓄積を得ます。
感受性と思考力も、自分自身の「本気度」で決まるはずです。五感のすべてを傾けて情報を察知し、子細に分析し、よく考え、思いを馳せる。これはトレーニングを積めばいくらでも高めることができます。やっぱりこれも「本気度」で決まるのです。
犬を変えるなら、まず人が変わらなければならない。変われないのは、まだ本気ではないから。本気になれば、人は「必ず」変われる。人が変われば犬も変わる。きっと誰もが、飼犬たちのリーダーになれる。私はそう信じています。頑張れっ!飼主の皆さん。
読者に言っているのか、はたまた、わたし自身に言っているのか。。。。。(合掌)