食事中の犬の体にさわれない、ましてフードボールになどふれられない。食べているとき近づくと本気で唸る。またその前段階、つまり、食事を用意しているときなどに強烈に催促される(要求吠え)。猛烈な早食いや強い独占。こういう問題行動は「フード・アグレッシブ」と呼ばれています。
昔からよく「犬が食べているときに近づいたり触ったりしてはいけない」などと言われていますね。まぁ飼い主がよければそれでも良いのだけれど、そういう子はおもちゃに対しても似た状況であることが多いと思います。(対象がおもちゃの場合は「トイ・アグレッシブ」と呼ばれています。)おもちゃを回収できないと困ること、ありますよね。
まぁ、簡単に言えば、独占欲の強いタイプで、食べることと生きることが直結しているのが動物の基本なのだから、仕方がないといえなくもない。が、やっぱり治してあげたい。落ち着いて待ち、落ち着いて食べる。それが一番。
まず、犬にとって食事の時間は至上の喜びの時間、とても幸せな時間なのだと思います。同時に、絶対に欠かせない時間、絶対に奪われてはならない時間、ということになります。ということは、この時間を主従関係の構築に利用しない手はありません。
そもそも食事は飼主のものであり、その一部を分けてもらっているのだ、と認識させます。この認識が、犬と飼主の関係の基礎にあれば、その他のいろいろな場面で有効です。「あぁ、確かに犬が変わった」と思える瞬間が必ず訪れます。
さて、どうすればよいか。まずはこちらの心構えです。とにかく”本気”になってください。通常モードではだめです。気合を入れて、犬とキチンと正面から向き合うモードになってください。実はここが肝なんです。犬に負けない、強くて頼もしくて優しい主人であることを、あなた自身が意識することで、あなたのオーラが悠然と優しく、大きくなります。犬はこのオーラを瞬時に見抜きます。あなたの小さな動きにさえ、犬が反応し始めます。ジーっとみられています。そのうちいつも通り吠え始めるでしょう。でも、まだ我慢です。フードボールを手に持ったまま、ウロウロします。吠えます。暴れます。でもダメです。まだあげません。犬に対しては基本無視です。犬が暴れている限り、絶対にあげてはいけません。時々犬と目が合うと思いますが、愛情のあるまなざしを返し、すぐに目をそらします。無視を続けます。あまりにも長く要求が続くようなら、フードボールを持ったまま何気なく一旦その場所を離れてもいいでしょう。決して「静かにしなさい」などと怒鳴ってはいけません。ここでの怒りの気持ちはご法度です。一切しゃべらない方がいいでしょう。そのうちに犬は必ずあきらめます。つかれて、あきらめて、伏せて、こちらを見なくなります。その瞬間を待ちます。そのための静かな雰囲気を作ってあげてください。犬と人との根競べですね。(人が犬に負けてはいけません、絶対に。)「完全」にあきらめてこちらを見なくなったら、ゆっくり、ほんとうにゆっくり、そして優しい気持ちで、フードボールを既定の場所にそっと置きます。この時、犬が気付くように「はい、どうぞ。」などと静かな言葉を発してもいいでしょう。あとは犬に任せます。十分な量を食べさせてあげてください。あなたは食べる犬の姿を無言でじっと眺めていてください。食べ終わったらよく褒めてあげます。そしてフードボールをゆっくり下げます。キーワードは「本気の威厳と優しさ」と「落ち着き」です。
これを食事のたびに必ず実施します。実施しないときがあってはいけません。必ず実施し、犬によい成功体験を積ませてあげてください。1週間もすれば、食事の準備をし始めたとたん、静かに伏せて待つようになり、自然に、ゆっくり落ち着いて食べるようになるでしょう。
これが十分にできるようになったら、食べているときに、フードボールを取り上げたり、手を入れてみたりできるかチェックしてみてください。さらに、フードボールの中のドッグフードを手で取ってその手から食べられますか。唸ったり牙をあててきたら「No!」。そして食事中断。落ち着いたら再開。「食事は主人のもの」であることを徹底します。一歩も譲りません。
1か月後には(いい意味で)別の犬になっていることでしょう。
ちょっとだけ別の話。
フード・アグレッシブが明白な子に、食事直前のいわゆる「マテ」はしてはいけません。余計に執着が強くなってしまいます。逆に、フード・アグレッシブが改善した子なら「マテ」と言えばずっと待っているでしょう。そもそもそんな子に「マテ」させる必要はない。いずれにしても食事直前の「マテ」は不要、という結論になります。
結局、「犬に負けない」ということができない飼主が多いんだと思う。つまり、いつも犬に負けている。そりゃぁ主従逆転するでしょ。そしてその時間が長ければ長くなるほど、犬は「悪い」自信をつけてしまう。結果、矯正には時間がかかるようになり、難しくもなる。
私は思う。飼主がもう少し本気になってくれればいいのに、と。Better Human, Better Dogs!