よく「さんぽ」「散歩」っていうけど、それってなぁに?
飼主の散歩に犬が付いてくること?
犬のさんぽに飼主が付いていくこと?
飼主さんたちをよく観ていると、飼主が犬を散歩に連れ出したつもりが、出た瞬間に立場逆転。犬のさんぽに飼主が付いていくようになってしまうことが多いようだ。誰の散歩?目的は何?
ひとことで「さんぽ」と言っても、その言葉を使う人や状況によって意味が違ってくることが多い。意味と一致するように、言葉を使い分けないと会話が成り立たない。
なんとなく個々人が持っている ”犬の散歩” というもののイメージに縛られてしまう。そのイメージが曖昧なものであれば、思考もまた曖昧なままだ。思考を表現するのが言葉だが、言葉により思考するという側面もある。曖昧な言葉は、曖昧な考えと結びつき、曖昧な行動へつながる。飼主が曖昧だから、犬も曖昧になりどんどん乱れてくる。
ちょっと話が難しくなってしまった。閑話休題。犬の「散歩」という言葉を整理しよう。
まず「移動」。これは、飼主をリーダーとする群れの移動だ。群れがある目的地まで、まとまって移動する際、途中で寄り道したり、好き勝手に動くようなメンバーがいたら困る。そのメンバー自身も危険だが、群れ全体が危険にさらされることになるからだ。仔犬たちは、リーダー犬や母犬・父犬から、そのことを徹底的に教え込まれる。クンクンもダメ。排便もダメだ。群れは一つにまとまって、整然と粛々と移動しなけれならないのだ。厳しく、たいへん集中力の要る作業なのだ。
次に「運動」。「移動」と比べると犬の自由度は高くなる。止むを得ない排便は許される。目的は体力を使うこと。そして、飼主と一緒に体を動かすことが「楽しい」と感じられるようにしたい。ゆっくり長距離もよし、短距離全力疾走もよし。ボール遊びやフリスビーでもよい。犬種や個体差、あるいはその日の気分によって変えてもいい。ポイントは多少強制的に体力を奪うこと。人間が運動して汗をかくことと同じだ。これは犬にとっての「仕事」として位置付けられ、群れの一員として働くことで、犬たちは自信をつけ、大人になってゆく。体だけでなく心を育てる意味もある、とても大切な時間だ。
最後に「遊び」の時間。これは自由だ。クンクンもアリ、排便もアリ。飼主はのんびり歩いてもいいし、その場に留まってもいい。ただし、飼主は、犬が自由に振る舞える環境を正しく選ぶ必要がある。環境が整えばロングリード、もっと良い環境ならば Off-Leash にもできる。もちろん犬同士の交流もアリだ。大切なのは、この時間をどれだけとるか。不十分なのも、長すぎるのも良くない。この時間を長くとりすぎている飼主をよく観る。たぶん日ごろの運動不足やコミュニケーション不足を補おうとする気持ちがそうさせるのだろう。しかし、十分に「運動」している犬ならば 5分~15分程度で十分に満足する。長すぎると、犬たちは ”自由” を履違えてしまうだろう。”落ち着いた楽しい時間” を過ごし、良い印象で終わることが大切。犬の興奮度が高まって乱れてきたら即座に終了だ。さてその時、自分の犬を呼び戻せるだろうか。呼び戻せる範囲内の興奮度で遊ぶのが大切なのだ。
以上、「さんぽ」を「移動」「運動」「遊び」の3つに分類したが、実際のさんぽはこれらの組み合わせとなることが多いだろう。ゴールを決めて、そこまでは「移動」だ。目的地に着いたら「運動」か「遊び」。そして帰りはまた「移動」。応用編として「移動+運動」「運動+遊び」といった具合に、2種類を混成してもいいだろう。ただし「移動」と「遊び」は、犬も人も熟練してこないと混成しにくいので注意が必要だ。要は、メリハリの効いた「さんぽ」が大切なのだ。
たとえば我が家の「あき」はよく、私が自転車で連れて散歩しているのをご存じの方も多いと思う。この場合は「移動+運動」を目的としている。目的地に到着したら休憩を兼ねてオヤツや「遊び」時間をとり、帰りはまた「移動+運動」だ。一方、ロングリードを使って、河川敷などをのんびり歩いているときもある。これはほぼ「遊び」モード。「あき」は、飼主と「一緒に歩く」ということをよく理解しているので、自由にクンクンできるこの時間は「あき」にとってとても楽しい時間。飼主にとっても犬と濃密なコミュニケーションをとることのできる大切な時間だ。ただし、その中で必ず、明確な ”訓練” 時間をとっている。15分程度だろうか。呼び戻しや、マテなどの基本コマンドの確認、横か後ろをしっかりついて歩くことなど、その時に応じて内容は異なるが、犬がしっかりと「命令を聞く」というモードになる時間を、他の時間とは明確に区別して確保するようにしている。
私が思うに、多くの場合「運動」が足りていないのではないだろうか。エネルギーが溜まりに溜まっているから、とても興奮しやすくなる。興奮すれば制御しにくくなる。おなかも減らないし太る。健康にもよくない。でもたぶん、多くの飼い主にとって、そのことは釈迦に説法のはずだ。人間同士もそうだが、生き物との関係性というのは、とにかく「日々の積み重ね」が大切なのだ。その積み重ねが「今」そのものなのだ。これまでどのような関係性を築いてきたのかは、今この瞬間、眼の前に居るあなたの犬そのもの。
なにか困ったことが続くようであれば、まずは「運動」を見直してみることをお勧めする。たったそれだけで、あなたの犬は見違えるように変わるかもしれない。