あきはうちに来た当初、食糞癖がありました。あずかりさんからもそのように伝えられてはいましたが、実際に現場を見ると、飼主としてはかなりショックだったことを覚えています。いろいろ頑張ってうちに来てからおおよそ2か月で改善することができました。
食糞癖の改善は、吠えの改善に並んで難易度の高いしつけの部類に入ると思います。その理由は、しつけることそのものが難しいのではなく、その機会を逃さないことが難しい、失敗させないことが難しいという点にあります。それは、いつ排便するのかが不確定だからです。もちろん食事の後や運動の後などが高確率なのですが、犬が留守番をしている間、飼主は介入できません。自分の糞を食べるのを楽しみしている賢い子であれば、飼主に奪われることから逃れるために、わざわざ飼主に見られない場所やタイミングで排便するようになってしまうことさえあります。特に最近の日本では(私は大反対ですが)「小さく育てる」ことが好まれ、給餌量を減らす傾向があります。そのような子は、いつも飢餓感を抱えているため、問題行動が増えるのは想像に難くありません。
しかし、一般的には食糞癖は成長に伴い改善される、と言われているので、無理に直さなくても良いのかもしれません。一方、4,5歳になっても改善されないケースもあります。その原因の多くは、やはり飢餓感が伴う習慣化だと思います。また、母犬については少し別扱いです。母犬は、(たぶん)自分たちのねぐらをきれいに保つために、子供たちの便を食べます。これが習慣化してしまうことがあるようです。また、最北の地シオラパルクなどでは、犬たちが互いに競い合って他の犬の便を取り合っています。排便の途中でさえ、股の間から奪っていきます。餌が乏しく、ほぼ無菌の酷寒の地。便は貴重な栄養源なのかもしれません。
さて、実際の対策方法を紹介します。あきはこれらすべてを実施しました。
😀とにかくお腹いっぱいにおいしいご飯を食べさせる
飢餓感はダメです。確かに犬は飢餓感耐性の強い動物ですが、食糞癖を治したいなら、まずはこれからでしょう。カロリーを抑えて、セロトニン効果を信じて、ゆで野菜を中心にお腹いっぱい食べましょう。便よりもおいしいものをたくさん食べて満足することを覚えてもらいましょう。
😀排便を促すために十分に運動させる
要するに失敗させないためには、飼主が見ているときにだけ排便してくれればいいわけです。時でないときに排便しないようにコントロールしてあげる、ということです。便が出るまで運動させる、と言ってもいいかもしれません。でも子犬は1日に何度も排便するから大変ですよね。けれど、お腹いっぱい食べて、思いっきり運動して、排便したら、ぐっすり寝るはずです。このきれいなサイクルを作ってあげることが基本的なスタンスです。
😀監視カメラによる常時監視と即時対応を徹底する
少なくとも決まった場所で排便できることが前提になりますが、とにかく失敗させないために、トイレに監視カメラを設置してスマホで常時監視します。夜間であっても動体検知機能を使って監視します。犬がトイレに近づいたら、こちらも即時向かい、排便後、すぐに撤去することで習慣化を断ち切ります。これを行うのは大切なことなのでしょうが、はっきり言ってキツイです。夜はまともに眠れないし、映像は実際の動作よりも若干遅れます。こちらがどんなに頑張って現地に赴いても、残念ながら時すでに遅し。すっかりたいらげた後だったりします。そのすました顔を見ていると、彼らは自分の「それ」を本当に楽しみにしているのね、と思えてきます(笑)。
😀薬品に頼る
日々の食事に、専用のくすりを混ぜて与え、便のにおいに変化を与える方法です。食べてもおいしくないようなにおいになるそうですが、果たして本当のところは分かりません。ただ、変化はあると思います。犬をよく見ているとわかりますが、彼らは必ずにおいを確かめてから食べる/食べないを判断します。よく親しんだ慣れているにおいであれば、それは一瞬で、すぐに食べます。しかし、ちょっとでも違うにおいの時は、その時間が若干伸びます。そのあとちょっと舐めてみて、いけそうならいっちゃいます。つまりこの方法は「一瞬の時間稼ぎができる」程度の効果だということです。それをきっかけにしていろいろな改善方法を試す、というのが正しい使い方なのでしょう。その意味で、何種類かの薬品を用意しておくと良いのかも知れません。
薬を入れなかった便は、当然また元のにおいに戻るので、彼らは安心して楽しむことができることを忘れてはいけません。
😀魔法の液体「ビター・アップル」を使う
ビター・アップルという製品があります。犬に来てほしくない場所やかじってほしくない部分にシュッシュしておくだけ、というもの。これをホヤホヤの便にひと吹きします。なるほど、と思うかもしれませんが、そう簡単ではありません。単純にひと吹きしただけでは、上の「薬品に頼る」と同じ効果になってしまいます。実はこの製品には裏技的な使い方があるんです。ポチパパさんが紹介していました。こんな方法です。事前準備をします。それは、犬がリラックスしているとき、その口の中にシュッとひと吹きするというものです。正直、かわいいわが子に行うには、かなり勇気がいるのですが、あきがどうしても治らないし、今後のためにと思ってやってみました。まぁ、とにかくビックリしていました。「なんだコレは!ニガッ!オエッ!オエッ!オエッ!」って感じでかなり苦しんでいました。さて、犬はこれでこの薬品のにおいに徹底的に忌避感を持つに至りました。その準備の後、何日先でも、おそらく、何年先でも、犬はこのにおいがするものに手を出しません。単純に利用するより効果は絶大です。
😀トラップにより教育する
結局これが最善策ではないかと思います。犬のしつけのほとんどがこの方法だと思います。失敗をしてしまうような状況をあえて仕込んでおいて「No!」です。それを何度も何度も、できるようになるまで徹底的に反復練習します。小学生の宿題ドリルと同じです。具体的にはこうです。
排便したら、それを敢えて取り上げずに置いておき、食べそうになるのを待ち構えていて、その瞬間に「No!」。コマンドとしての「No!」が入っていない子は、これを機会に、やってはいけないことに「No!」と言われることを教えるとよいでしょう。すでに「No!」が入っている子なら、この課題はとても簡単で、高い効果が期待できます。諦めて、目標物を見なくなるまで絶対に阻止します。大切なのは、どんなに時間がかかっても決して負けないこと。ダメなものはダメなんだと、強い気持ちで接します。諦めてしばらく見なくなってもそのまま放置します。その場からちょっと立ち去ったりすると、また注目してきます。だってイイにおいがするんだもの。そうしてまた鼻を近づけてきたら「No!」。これを繰り返していると、犬はその場から立ち去るようになります。本当に無理だ、ダメなんだと理解します。これが完全勝利です。そしてこれも、基本的には排便のたびに、毎回やります。
コマンド「No!」はとても大切です。緊急時に、とにかく犬の動きを一旦止めるために使います。この場合であれば、鼻先を目標物に近づけた瞬間に「No!」と言いながら目標物と鼻先との間に掌を差し込みます。また、首や肩を指先でチョンと突いて「No!」でもいいでしょう。これは、母犬が「おいっ!コラッ!ダメでしょ!」と子犬に伝えるときに、子犬の首や肩に牙をあてることを真似た動作です。その緊急性やダメの程度に応じて強さが変わります。コマンドは「ダメ!」でも「イケナイ!」でも、飼主がとっさの時にすぐに発せられる言葉なら何でもいいです。「あっ!」っていう人もいるようです。そのコマンドを発しただけで犬が止まるようになることが目標です。
あきには一度、しつこい食糞癖を改善するために、キャンと叫ぶほど強いボディタッチをしたことがあります。あきの肩に、両手でかなり強いショックを与えました。これは本当によく効きました。犬と強い信頼関係があれば、飼主も、子犬を厳しく教育する母犬のように接することができ、犬はそれに必ず応えてくれるのだと思います。
これによって、あきは「本当にダメなんだ」ということを、よく理解してくれました。しかし、理解してもなお、まだ失敗は続きます。でもその失敗は「失敗した」と分かっています。私が見ていると「やっちゃった!」という顔をしています。改善は、そこからは早いです。「No!」と言えば、すぐに別の遊びを始めたり、私が便の始末をするのを待っていたりします。私がグズグズしていると「早く片付けて!」と催促することさえありました。
「No!」の発令は、実はとても難しいのです。犬が次の瞬間やらかしてしまうことが確実なときにだけ、発しなけれなりません。そこまでの犬の様子をよく観察し、その延長で正しく判断されなければならないのです。犬が鼻を近づけるのは、その対象を認識するためです。認識後にどう動くかが問題なのであって、鼻を近づけること自体は「No!」ではないのです。犬がそれを ”ダメなもの” であると認識した後、それを無視しようとしたり、遠ざかろうとする素振りを見せたら、その瞬間が、まさに褒めるタイミングです。Noのタイミング、褒めるタイミング、タイミングがとても大切なんです。飼主は「褒める」タイミングをいつも虎視眈々と狙っていなければなりません。ダメなものはダメ、できたら褒める。いつもこの繰り返しです。