ドッグランなどへ行くと、しつけやトレーニングについて相談されることが度々あります。先日は、何でもガリガリやって食べちゃう、1歳半のゴールデンレトリーバでした。「ハナセ(ダセ、アウト)」を教えればいいのでは、と勧めました。口の中に入れたものを、飲み込む前に吐き出させるコマンドです。ヤバいものを無邪気に口に入れてしまう子は、特にこのコマンドを入れておくこと良いと思います。質問者には、トラップを仕掛けてボディタッチを基本とした方法をお話ししましたが、いつもその不十分さに苛まれる始末です。なので今回はその本質に触れておきます。
1つのコマンドを教える方法には、実はいろいろなものがあって、その子の個性や、置かれている環境に応じて、適切な方法は変わります。一応「王道」的なものはあると思っているので、多くはその方法をお応えするわけですが、方法の選択と技術以上に前提とされる大切なものがあって、そのことにまったく言及できないことが多いのです。それが不十分さなのです。
大切なこととは、「そこまでに培われている犬と飼主との関係性」です。あらゆるしつけやトレーニングの前提となるのは、第1に犬との信頼関係、第2に主従関係です。犬の個性は第3番目、環境は第4番目といってよいでしょう。私がドッグランで質問者に紹介したような具体的な「方法」なんて、その次よりうしろ、実はあんまり重要な事柄ではないんです。小手先の技術に過ぎない。
例えば「あき」ですが、私とは本当に強い信頼関係としっかりした主従関係で結ばれていると勝手に思い込んでいますが、そのような犬と暮らしていると「小手先の技術」であることが本当によくわかります。私が何かしようとしたとき、その私の行動をいつも犬がよく観ていて、半ば「先読み」して動くようになるんです。ほんの少しの手の動きで、私がしようとしていることを察知して反応します。もちろん、本人(犬)の意思もあるので、主張が拮抗することもよくありますが、私がグッと踏み込めば、シブシブでもあきらめて従います。人間にとって犬は、もともとそういう存在なんだと思います。
そのような関係性を築くことができているなら、犬は、様々なしつけやコマンドをすぐに覚えてくれるし、何より飼主自身がそうであることをよく分かっているはずなのです。つまり、そのような犬には、もはや「問題」はないわけで、結局、ドッグランで私に尋ねる必要もない、ということになるのです。
そんなわけで、飼主としては「小手先の技術」を学ぶより先にやらなければいけないことがある、という結論になります。そのうえで、犬の個性と反応をよく観察して、それらを正しく理解し、応用する。しつけとトレーニングの本質とは、そういうことなのだと思います。