ご存じの方もいらっしゃると思いますが、スリップ・リードは、犬が引っ張ると首が締まる構造をもった非常にシンプルなリードです。これを使用する場合はカラーは使いません。下の写真は、基本的なスリップ・リードで、私も3本ほど持っていていろいろな場所に置いていつでも使えるようにしています。適当な長さと太さで、コシがあって、500円代で購入できてなかなか良い品です。
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リードの先端部が、自分自身に接続されることでできる輪に犬の首を入れて使います。ちょうど平仮名の「の」の字の形ですね。犬を左側に置きたければ、犬から見て「の」の字に頭を通す向きで繋ぎます。位置はカラーと同じ、必ず耳のすぐ後ろです。
穴をを接続部分を挟んで、写真の右側にあるの茶色の革製の部品は、リードがゆるんだ時に輪が大きくなり過ぎないようにするためのストッパ。左側の金属部品は、輪が小さくなりすぎ事を防ぐストッパで、この2つの分の間を接続部分が自由に移動します。引っ張れば輪が小さくなって首が締まり、ゆるめれば輪が大きくなって首もゆるみます。
締まりすぎストッパのないものもあります。こちらは上級者向けです。
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引っ張れば首が締まるので苦しいので、犬は引っ張らなくなる、というわけです。まぁ、このリードに対する一般的な説明はこんなところでしょう。
今回はこの道具について、「あき」との実践を踏まえて、もう少し掘り下げてみたいと思います。
初めは半信半疑でした。5ヵ月弱の、よく引っ張る「あき」に初めて試した時は、完全に失敗でした。とにかくひたすら引っ張るものだから、とても苦しそうで、咳込んでいました。引っ張るから苦しい、苦しいから暴れる、暴れるからまた苦しい。という感じで、こりゃダメだ、と思いました。しかし、今思えば、若い「あき」には、「引っ張れば苦しい」という、このリードの仕組みは、まだ理解できなかったのです。
それからしばらくは使用しませんでしたが、月齢が進むにしたがって、少しずつ使用頻度を増やしていきました。散歩の復路は、往路に比べて落ち着いて歩けるので、それを狙いました。通常のカラーとリードを使って出かけ、帰り道の一部をスリップ・リードに交換します。引っ張ってあまりに苦しそうなら通常に戻します。決して、散歩が楽しくなくなっちゃうことがないように注意します。
そうして1週間もしたら慣れてきて、復路の全行程をスリップ・リードで歩けるようになりました。この「歩けるようになる」ということの意味、分かりますよね。通常のリードとは違うんです。そう、”引っ張らずに” ということです!「あき」がこのリードを理解してくれたんですね。同時にどうすれば苦しくないか、ということを。そして、「あき」と同じように、私自身もこのリードの微妙な使い方を習得したわけです。これはなかなか感動的なものだったのをよく覚えています。
まずこのリードは、カラー(首輪)を使いません。リードは飼主と犬をつなぐ「糸」ですから、その間に別の部品が入ることで、意志の伝達が一瞬遅れるんですね。スリップ・リードにはそれが非常に少ない。できるようになればよく判ることなのですが、たとえリードが多少ゆるんでいたとしても、指先でほんの少しだけリードにアクションを伝えるだけで、犬は見事に反応します。この鋭敏さはカラーを使った時とは比べものになりません。驚きです。犬との一体感、「飼主の意思は、こうして伝えるんだ」と、ほんとうに体感しました。「あき」へのしつけがよく進むようになったのも、ちょうどこの頃からだったと思います。犬自身の成長と飼主としての私の成長。それを補助する道具。いずれも大切なんですね。
スリップ・リードは、犬が前にでて引っ張ると、犬は苦しくなります。犬自身は単純にこのことを覚えますが、このとき飼主は、犬が苦しまなくて済むように(可哀そうですから)(リードが少しゆるむように)、犬を追って少しだけ前に行くように反応するようになります。これにより、飼主と犬の位置が横に並ぶことになる。そしてその位置関係は、実は、飼主の意思が犬に最もよく伝わる位置なのです。(横に並んでいる犬を簡単に座らせられることは、すべての飼主が体感していることだと思います。)犬の動きに飼主も敏感に反応できるようになるわけです。このとき、犬と飼主の間には、結構な緊張感があります。そしてこの緊張感のことを、実は「主従関係」などと呼ぶのだと思います。「散歩が大事」ということはよく言われることですが、その本質はこのあたりにあるわけです。
母犬やリーダ犬が子犬をしつけるときは、軽く牙をあてたり、ウーと唸ったりします。それは必ず、子犬に近づいてからやります。犬社会にはリードはありませんから、それは当然なことなのですが、飼主が犬をしつけるうえで、その性質を真似るのは効果的だと思います。飼主が近いところにいる方が、犬はその意志をよく感じることができるわけです。
このような一連の大切な要素を、一度に体感させてくれるのが、スリップ・リードという道具なのです。ちなみに、つける場所は必ず「耳のすぐ後ろ」です。ストッパを調整して「小指一本」程度の遊びで装着します。通常のカラーよりもキツイです。犬への密着度をできるだけ高めて、装着位置がズレるのを防止します。
確かに、スリップ・リードを上手に使えるようになるには、相応の技術力が必要ですが、犬を精度よくコントロールするには、最上の道具だと思います。
これは、自作のスリップ・リードです。試してみたい方には製作いたします。ご用命ください。
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市販のスリップ・リードを購入する際に、注意すべき大切なポイント書いておきます。ゆるみ防止のストッパが、上2つの写真のようにリード自身に強く固定するタイプではない場合、リードの素材や編み方によく注意してください。リードが伸張したとき、それによって径が細くなってしまうものはダメです。径が細くなるとストッパが動いてしまいます。ほとんどのケースで、犬に近づく方向に動いてしまい、リードがゆるむとそこで固定されてしまいます。犬のとってはどんどんキツク苦しくなる一方です。私も一度失敗しました。そんなリードは、スリップ・リードとしては使えませんので、別の目的で使用するようにしましょう。ちなみに私が製作しているもの(直前の写真)は、ばね式のコードストッパが使用されているため、ズレてしまうことはありません。おすすめです。