引っ張る犬を見ていると、自分の首が苦しいから引っ張らなくなる、とは到底思えない。多少苦しかろうが痛かろうが、そんなことはお構いなし。飼主との引っ張りっこを楽しんでいるわけではないが、飼主が後ろでリードを持っていることを前提にして、より一層体重をかけているようにも見える。走り回ることはできないが、飼主がリードを張っていることで、両足いっぱいに力を込めて踏ん張れる。目一杯体に力を入れて運動したい犬にとっては、それなりにストレス解消になるのかもしれない。逆にそのために首輪でなく、ハーネスを使うようになる飼主もいる。
日中ずっとお留守番している子にとってはとても嬉しい運動の時間だし、待たせていた飼主にとっても、愛犬と過ごす貴重で大切な時間だ。犬には多少のわがままを許してあげたい。走り回らせてあげることはできなくても、自由に鼻を使わせてやり、排便させてやりたい。そのために、多少の引っ張りは大目に見て、犬の後を付いて行ってあげよう。犬もすっかりそういうものだと思い込んでいる。
エネルギーが有り余っていて、それを一気に放出するように習慣づいているから、他の犬と正しいコミュニケーションの方法が採れない。飼主はそのことが分かっているから、他の犬とのコミュニケーションをはじめから拒絶する。これでは犬も人も「経験不足」のままだ。散歩でもドッグランでも「経験不足」は、様々な「問題行動」につながりやすい。いざ問題行動が起きても、飼主は介入すべきタイミングを知らないし、その技術もない。「困った子ねぇ」と一方的に犬に責任を押し付けて、ひとり納得したふりをして済ましてしまう。犬には、なぜ叱られるのかが伝わっていないし、むしろ「やってやったぜ」と、犬はどんどん自信をつけてゆく。そして同じ失敗を繰り返してゆく。やがてドッグランには行かなくなり、ひと気の少ない時間を選んで、散歩に行くようになる。
良かれと思ってやっていた小さなことは、悪しき習慣となって強化・定着する。そして飼主は途方に暮れ、とうとう犬は、我が飼主の上に君臨する。
犬自身が本来持っている個性や、加齢に伴う性格や体力の変化が重なってくるから、必ずしもこのような図式にすっぽりはまることは稀だろうが、これは、たぶん多くの飼主と犬に見られる、とても分かりやすい感情と行動のパターンだろう。
犬とどのような関係を望み、作っていくのかは、まったく「飼主次第」「飼主がよければすべてよし」なのだから、別に私ごときが口をはさむ必要はないのだけれど、ご自身の愛犬との関係が、このレールに乗っていないか、胸に手を当てて思い直してみるのも大切なの事ではなかろうか。対処は早ければ早いほど良いのだから。